no image

「バイノーラル収録は迫力が出る」だけじゃない、意外と知られていない話

「バイノーラル収録って、要は臨場感とか迫力が出るってことですよね?」
そう聞かれることが、わりとよくあります。

間違いではありません。
でも、それだけで理解してしまうと、ちょっともったいないと思います。

「臨場感が出る」で止まってしまう理解

バイノーラル音声は、ダミーヘッドマイクで収録することで、耳のすぐ横で音が鳴っているような感覚を作れます。
ASMRなどで広まったこともあり、「音が近くて気持ちいい」というイメージを持っている方は多いと思います。

ただ、私が実際の制作で一番意識しているのは、迫力そのものではありません。
「音がどこにあるか」を、聴き手の頭の中に正確に作ることです。

効いているのは「距離感」と「定位」

たとえば、後ろから声をかけられる場面。
足音が左から右へ通り過ぎる場面。
紙をめくる音が、すぐ耳元で鳴る場面。

こうした音は、大きくしたから伝わるわけではありません。
左右の音量差、届くタイミングのわずかなズレ、耳介での反射。
そうした情報が揃って、初めて「そこにある」と感じられます。

派手な効果音よりも、こうした地味な位置情報のほうが、作品の説得力を左右しているのではないかと思います。

むしろ静かな場面のほうが差が出る

意外に思われるかもしれませんが、バイノーラル収録の強みが一番出るのは、派手なシーンではありません。

・誰もいない部屋で、衣擦れの音だけが鳴っているシーン
・二人が並んで小声で話しているシーン
・環境音だけで「その場所にいる感じ」を出したいシーン

こういう静かな場面ほど、位置情報の解像度がそのまま没入感につながります。
逆に言うと、ここで距離感が曖昧だと、「なんとなく音がある」だけの、平坦な印象になってしまいます。

収録時に意識していること

布音を例に挙げると、宅録フォーリーとしてダミーヘッドマイクを使うとき、次のような事を意識しています。

・音源とマイクの距離を、台本上の距離感と一致させる
・左右だけでなく、前後や上下の動きも意識して動作を作る

(特に上下は定位感覚が鈍いので、フォーリー表現の腕前が出てきます)
・さりげない動作にはさりげなく、大胆な動作は思いっきり音を入れる

派手な演出を足す作業ではなく、位置関係を丁寧に積み上げていく作業だと思っています。
地味ですが、ここを丁寧にやるかどうかで、完成後の印象がかなり変わってきます。

「音を入れる」のではなく「雰囲気を付け足す」仕事

「もっと臨場感を出してほしい」というご相談をいただくこともあります。
そのとき実際に必要なのは、音量を上げることではなく、位置関係を整理し直すことだったりします。

バイノーラル収録やダミーヘッドでのフォーリー制作にご興味があれば、作品の雰囲気や用途に合わせて、どこまで距離感を作り込むかもあわせてご相談いただけます。

音を大きくする仕事ではなく、音の置き場所を作る仕事。
そう捉えていただけると、バイノーラル収録の見え方も、少し変わってくるのではないかと思います。

TOP