私は必ず、環境音として「何も鳴らさない音」を録るようにしています。
マイクを立てて、レベルを合わせて、誰も動かず、何も鳴らさない。
ただその部屋の空気だけを録る時間です。
いわゆる「ルームトーン」と呼ばれるものですね。
本当の「無音」は、意外と不自然に聞こえる
まず前提として、録音された音には必ず「部屋の音」が乗っています。
・エアコンや換気扇の低いうなり
・遠くを走る車の気配
・マイクやプリアンプのわずかなノイズ
・部屋そのものの空気感
普段は意識しないくらい小さな音ですが、
声や効果音の後ろでずっと鳴り続けています。
ノイズ除去ツールで低減はしますが、完全には消えません。
(ここで完全に消そうとすると、聴かせたい効果音も劣化していきます)
この状態で、間の部分だけを完全なデジタル無音にすると、
そこだけ「プツッ」と空気が途切れたように聞こえます。
人の耳は、音がないことよりも「音が急に消えること」に敏感です。
特にヘッドホンで聴かれることが多いASMRやバイノーラル作品では、
この違和感がかなり目立ちやすいと思います。
編集で「隙間を埋める素材」がないと困る
ルームトーンが一番役に立つのは、編集の段階です。
たとえば、リップノイズやページをめくる音、
ちょっとした咳払いなどを削ったとき。
削った部分に何かを置かないと、そこだけ不自然な穴が空いてしまいます。
そこにルームトーンを敷くと、
前後の空気がつながって、編集した痕跡をぼかすことができます。
本番の素材の中から「何も鳴っていない部分」を探して使う方法もあります。
ただ、テイクの間はたいてい短く、
数秒分を探すだけでもけっこう時間がかかります。
あらかじめシチュエーションに合ったルームトーン・環境音を用意しておくと便利です。
ノイズ除去の精度にも関わってくる
もうひとつ大きいのが、ノイズ除去ツールとの相性です。
多くのノイズリダクションは、
「これがノイズです」というサンプルを学習させてから処理する仕組みになっています。
このとき、声や物音が混ざっていないきれいなルームトーンがあると、
ツールが「消すべき音」を正確に判断できます。
なので収録毎に5~10秒ほど、ルームトーンを毎回回しておくと良いかもしれません。
ノイズを「消す」ためにも、まずノイズを「きちんと録る」。
少し逆説的ですが、ここはかなり大事なポイントかもしれません。
※たまにお手伝いでボイス収録のエンジニアをやる事もあるのですが
その場合は各トラックの末尾を長めに回したりしています。
特に音声作品は一回の収録が長尺なので、トラックごとに学習用の無音を作っていたりします。
ただし、録り方には少しだけコツがある
とはいえ、ただ録ればいいというわけでもありません。
私が気をつけているのは次のあたりです。
・本番とまったく同じマイク位置、同じゲインで録る
・エアコンなど、本番で付けている機材はそのままにする
・演者さんも本番の位置にいてもらい、動かずに待ってもらう
・できれば収録の最後にもう一度録っておく
特に、ゲインやマイク位置を変えてしまうと、
ノイズの量や質感が本番と合わなくなってしまいます。
少しの手間で、仕上がりの「自然さ」が変わる
「何も鳴っていない音」も、立派な収録素材のひとつです。
宅録で声や効果音を録っている方も、
次の収録から最初(終わり)の10秒だけ試してみていただけたらと思います。
Hz Productionでは、宅録フォーリーをはじめ、収録環境に合わせた音づくりのご相談も承っています。
気になることがあれば、お気軽にお問い合わせください。