効果音制作では「綺麗にすること」が正解とは限らない
音声編集において、EQは欠かせない道具です。
こもりを取る。
耳に痛い帯域を抑える。
不要な低域を整理する。
どれも大切な処理です。
ただ、EQにはひとつ注意したい点があります。
それは、音を整えているつもりが、音の持っていた 厚み・距離感・身体性 まで削ってしまうことがある、ということです。
よく「EQをかけたら音が痩せた」と表現されたりします。
EQは、特定の帯域だけを変えているようで、全体の印象を変えている
EQは、ある周波数帯を上げたり下げたりする道具です。
しかし実際には、動かした帯域だけが変わるわけではありません。
ある帯域を上げれば、他の帯域は相対的に弱く聴こえます。
(これをマスキング効果と言ったりします)
たとえば、高域を上げて「抜け」を作ろうとしたとします。
一見すると音は明るくなります。
でも、そのぶん中低域の存在感が相対的に薄くなり、結果として音が細く感じられることがあります。
EQによる音痩せは「低域を削ったから」だけではなく、周波数バランスの相対的な変化やマスキングによって起こると言われています。
「不要な帯域」と「作品に必要な情報」は紙一重
EQで怖いのは、不要な帯域を削っているつもりで、作品に必要な情報まで削ってしまうことです。
たとえば、低域に少しモヤッとした成分がある。
一般的な整音の感覚では、そこをローカットしたくなるかもしれません。
もちろん、本当に不要な振動や空調ノイズであれば削るべきです。
ただ効果音では、その低域や中低域が「近さ」や「身体感」を支えていることがあります。
こうした音には、綺麗に整えすぎると失われる情報があります。
ノイズに見える成分が、実は距離感の手がかりになっていることがある。
濁りに見える成分が、実は素材の肉付きになっていることがある。
曖昧に聴こえる成分が、実はバイノーラルの生々しさを支えていることがある。
だから、効果音制作では「削る」「残す」のバランスを考える必要があります。
急峻なEQは、音の立ち上がりにも影響することがある
EQによる音痩せは、周波数バランスだけの問題ではありません。
EQやフィルターは、設定によって位相や時間方向の印象にも影響します。
これは、フォーリーや効果音では無視しにくい問題です。
効果音は、鳴り始めの一瞬に多くの情報があります。

この立ち上がりが少し鈍るだけで、音は「弱い」「遠い」「薄い」と感じられることがあります。
急峻なローカット、強いカット、狭いQでの極端な処理、複数EQの重ねがけなどは、音の質感や立ち上がりに影響する可能性があります。
ちなみに私は画像に挙げた「Kirchhoff-EQ」を愛用しています。
複数の位相コントロールモードを使うことができるので位相変化を最小限に抑える
もしくはわざと音をボケさせて距離感を補完する使い方もできたりします。
バイノーラル効果音では、音痩せは「距離感の損失」になる
私が効果音制作で特に重視しているのは、音の距離感です。
バイノーラル作品では音の距離感、Airという感覚がとても重要です。
この距離感は、単なる左右の音量差だけで作られているわけではありません。
複数の情報が合わさって、ようやく「そこにある」と感じられます。
EQで整えすぎると、この空気感が歪んでしまうように個人的に感じています。
EQは「削る道具」ではなく「残すために整える道具」
EQは音を整える上で大事な道具ですが、使い方によっては不自然な音作りになる可能性を孕んでいます。
なので、製作上・特にバイノーラルの場合はEQに限らず録りの段階で狙った音が録れるよう心掛けています。
あくまでEQなどのプラグイン処理は補助的なもの。
マイキングや道具に工夫を凝らすことで、鳴る音そのものを作りこむ方が結果的に良いと思います。