マイクやオーディオインターフェースをつなぐ時によく使われる、キャノンケーブル。
(正式にはXLRケーブルと呼ばれます)
今回、収録環境の見直しに伴って何本か新調しました。

見た目は、少しゴツいケーブルです。
端子は大きく、カチッとロックされる。
RCAケーブルやイヤホンのミニプラグと比べると、いかにも業務用という雰囲気があります。
では、なぜ音響の現場ではXLRケーブルがよく使われるのでしょうか。
理由はシンプルです。
音が劇的に良くなるからではありません。
ノイズに強く、抜けにくく、現場で安定して使えるからです。
音響の仕事では、「すごく良い音にすること」も大切です。
ただ、それ以前に「悪い音にしないこと」がとても重要です。
せっかく良いマイクを使っても、ケーブルでノイズを拾ったら台無しです。
せっかく良い演技が録れても、途中で接触不良が起きたら使えません。
XLRケーブルは、そういう事故を減らすための道具です。
XLRケーブルの中では何が起きているのか
XLRケーブルは、基本的に3本の線で音を運びます。
1番ピン:GND
2番ピン:ホット
3番ピン:コールド
ここで大事なのは、ホットとコールドです。
ホットには、普通の音が流れます。
コールドには、ひっくり返した音が流れます。
この時点では少し分かりにくいと思います。
具体的な例えを出すと、写真で考えると分かりやすいです。
1枚目の写真には、人物とホコリが写っています。
2枚目の写真には、反転した人物と、同じホコリが写っています。
この2枚を機械的に引き算すると、どうなるでしょうか。
同じように写っているホコリは消えます。
一方で、反転して写っている人物は、差として残ります。
XLRのバランス接続も、これに近いことを音で行っています。
ケーブルの途中でノイズが入ると、そのノイズはホットにもコールドにも似た形で乗ります。
しかし、本来の音はホットとコールドで反対向きに送られています。
受け側の機材は、その2つの差を取り出します。
すると、同じように乗ったノイズは打ち消されます。
反対向きに送られていた音だけが、きちんと残ります。
これが、XLRケーブルがノイズに強いと言われる理由です。
マイクの音は、とても小さい
ここで重要なのが、マイクから出る音声信号はとても小さいということです。
マイクプリという機材(オーディオインターフェースにも内蔵されている)で増幅する事で
音として認識できるレベルの信号になるわけです。
人の声や物音をマイクで拾った直後の信号は、まだかなり弱いです。
弱い信号は、ノイズの影響を受けやすいです。
小さな声で話している人の横で、掃除機が鳴ったら聞き取りにくくなる。
それと少し似ています。
マイクの信号は繊細です。
だから、ケーブルの途中で余計なノイズを拾いにくいことが大切になります。
XLRケーブルは、この弱い信号をなるべく汚さずに運ぶために使われます。
XLRは抜けにくい
XLRケーブルの強みは、ノイズ対策だけではありません。
端子そのものがしっかりしています。
XLR端子は、差し込むとカチッとロックされます。
簡単には抜けません。
これは地味ですが、現場ではかなり重要です。
録音中にケーブルが抜ける。
少し触っただけで接触不良が起きる。
足に引っかかって端子が緩む。
こういうトラブルは、録音現場ではかなり怖いです。
特に、一発勝負の収録では「あとで録り直せばいい」が通用しない場面もあります。
だから、抜けにくく、壊れにくく、安定していることには大きな価値があります。
XLRケーブルがプロの現場で使われる理由は、音質だけではありません。
失敗しにくいからです。
高いケーブルは何が違うのか
では、高いXLRケーブルは何が違うのでしょうか。
結論から言いますと、予算範囲で高いケーブルを買っておいた方が安心です。
高いケーブルの価値は、主に信頼性です。
シールドがしっかりしている。
端子の接触が安定している。
断線しにくい。
曲げてもクセがつきにくい。
抜き差しに強い。
長く使ってもトラブルが起きにくい。
つまり、高いケーブルは「音を派手に良くするもの」というより、「音を悪くする原因を減らすもの」です。
ノイズを減らす。
接触不良を減らす。
断線リスクを減らす。
収録中の事故を減らす。
この差は、趣味で少し使うだけなら分かりにくいかもしれません。
しかし、仕事で何度も使うなら大きな差になります。
安いケーブルでも、短い距離で固定して使うなら問題ないことはあります。
ただし、現場で動かす。
何度も巻く。
何度も抜き差しする。
長く使う。
そうなると、安すぎるケーブルは不安が出てきます。
録音の仕事で怖いのは、「ほんの少し音が違うこと」よりも、「大事な場面でトラブルが出ること」です。
XLRだから必ず高音質、ではない
ここは諸説あるとは思うのですが…
XLRケーブルを使えば、必ず音が良くなるわけではありません。
大事なのは、接続する機材がバランス接続に対応していることです。
XLR端子が付いていても、機材の中身が本当のバランス回路でなければ、ノイズに強いというメリットは十分に出ないことがあります。
つまり、XLRの強さは端子の形だけではありません。
ケーブルと機材がセットで働くことで、本来の力を発揮します。
まとめ
XLRケーブルは、音を魔法のように良くする道具ではありません。
本来の音を、なるべく汚さずに運ぶための道具です。
ノイズを拾いにくい。
抜けにくい。
壊れにくい。
接触不良が起きにくい。
長く使っても安定しやすい。
この安定感こそが、XLRケーブルが音響現場で選ばれる理由です。
音の世界では、派手な機材に目が行きがちです。
高いマイク。
高いオーディオインターフェース。
高いプラグイン。
でも、それらをつないでいるケーブルが不安定なら、良い音は簡単に崩れます。
ケーブルは主役ではありません。
しかし、主役の音を安全に運ぶ裏方です。
だからこそ、仕事で使うケーブルは、安さだけで選ばない方がいいのです。